居抜き物件の造作譲渡|残っている内装・設備を引き継ぐ契約で決めること・見積もりと保健所・消防
店の壁や床、カウンター、厨房の設備のように、建物に付けた内装や設備のことを「造作(ぞうさく)」と呼びます。前の店の造作が残った部屋(居抜き物件)を借りて、その造作を前の店から買い取って引き継ぐことを「造作譲渡」といい、部屋を借りる契約とは別に、前の店との間で造作譲渡の契約を結びます。
結論
- 造作譲渡の契約書には、譲り受ける物を1つずつ書いたリストを付けてください。リース品とビルの持ち物は、前の店が売れる物ではないので、リストから外します。
- 故障したときの扱いと、出ていくときにどこまで元に戻すかは、造作譲渡の契約書と部屋を借りる契約書の両方で確かめてください。
- 前の店の保健所の許可は、店の営業をまるごと引き継ぐ場合でなければ使えません。許可も消防の届出も、新しく店を開く人の名前で出します。
たとえば、居酒屋のあとに入る人が受け取る造作のリストには、次のように1つずつ扱いを書いておきます。
造作譲渡のリストの見本(居酒屋のあとに入る場合の例)数字は仮
| 厨房の換気フードとダクト | 譲渡・引き渡しの日に動作確認 | ① |
| 業務用冷蔵庫(型番〇〇) | リース品のため対象外 | ② |
| エアコンの室内機2台 | ビルの持ち物のため対象外 | ③ |
| 客席のカウンターと棚 | 譲渡・傷あり(写真を添付) | ④ |
| 看板と食器 | 前の店が引き渡しの日までに撤去 | ⑤ |
- ①動くかどうかを、いつ・誰が立ち会って確かめるかまで書いておく
- ②リース品の持ち主はリース会社。前の店は売れないので、リース会社に「契約を引き継げますか」と聞くか、撤去してもらう
- ③ビルの工事区分表で、持ち主がビル側になっている設備は買えない
- ④傷や汚れは写真に撮って契約書に付けると、あとで「最初からあった傷か」でもめずにすむ
- ⑤撤去と処分の費用を、どちらが払うかも書いておく
※ 品目と扱いは、書き方を説明するための仮のものです。
2つの契約と原状回復
居抜き物件では、相手の違う2つの契約を結びます。造作譲渡の契約は前の店と結び、部屋を借りる契約(賃貸借契約)はビルの持ち主と結びます。
居抜き物件で結ぶ2つの契約造作譲渡の契約
- ・相手は、前の店
- ・内装や設備を買う契約
- ・決めること:リスト・代金・故障・撤去
部屋を借りる契約
- ・相手は、ビルの持ち主
- ・部屋を借りる契約
- ・決めること:家賃・造作の扱い・原状回復
2つの契約は別々なので、前の店と話がまとまっても、それだけではビルの持ち主との約束にはなりません。なので、部屋を借りる契約書に「残っている造作をそのまま使ってよいこと」と、「出ていくときに、その造作をどう扱うか」を書いてもらってください。
出ていくときの扱いで特に気をつけたいのは、原状回復(元の状態に戻すこと)の範囲です。居抜きで借りても、出ていくときは内装も設備も無い状態(スケルトン)まで戻す決まりになっている契約があり、その場合は前の店がつくった内装を壊す費用まで、あとから入った店がもつことになります。
最後の項目は、ビルの持ち主の同意を得て付けた造作を、契約が終わるときにビルの持ち主にその時点の値段(時価)で買い取ってもらうよう求められる、という法律の決まり(造作買取請求権)に関わります。ただし、この決まりは、借りる人に不利な約束を無効にする決まりの対象に入っていないので、契約書に「請求しない」という条項があれば、その条項に従うことになります。
オフィスビルの賃貸借では、契約の原状回復の条項に基づいて、ふつうに使って傷んだ分まで元に戻す義務があるとした裁判例もあります。原状回復と工事区分表の関係は、ビルのB工事・C工事と工事区分表の読み方で説明しています。
譲り受ける物の決め方
部屋に残っている物が、すべて前の店の持ち物とは限りません。持ち主によって、前の店から買えるかどうかが変わります。
リース品は、リース会社が持ち主で、前の店は借りて使っているだけです。リース契約は途中でやめられず、話し合ってやめる場合は残りのリース料を払うことになっているので、リース品を使い続けたいときは、前の店とリース会社の3者で「契約を引き継げるか」を確かめてください。
ビルが付けた設備かどうかは、ビルの工事区分表の「資産区分」の行で分かります。たとえば仙台市の店舗区画では、B工事でつくった部分は原則として市の持ち物になっていて、川崎市役所の店舗区画では、B工事・C工事の部分はテナント(借りる店)の持ち物になっています。
リストができたら、代金の内訳も物ごとに出してもらってください。日本政策金融公庫の飲食業の創業の手引でも、居抜き物件では、譲り受ける造作・設備の価格の内訳と、その価格が妥当かを確かめるよう挙げられています。
故障したときの扱い
前の店から受け取った設備は、使い込まれた中古品です。なので、引き渡しの日に動くかどうかを確かめることと、あとで壊れたときにどうするかを契約書に書いておくことが、いちばんの備えになります。
店どうしの売買(商人どうしの売買)では、買った側は、受け取ったらすぐに検査しなければならないという決まりがあります。検査で不具合を見つけたら、すぐに前の店に伝えないと、修理や代金を下げることを求められなくなり、すぐには分からない不具合でも、6か月以内に見つけて伝える必要があります。
引き渡しの日からすること- 1立ち会って動かす前の店の人と一緒に、リストの設備を1つずつ動かし、動いたかどうかをリストに書き込む
- 2不具合はその日に伝える動かない・水が漏れるなどがあれば、その日のうちにメールで前の店に伝え、写真も送る
- 3使いながら見張る6か月以内に見つけた不具合も、見つけた日にメールで伝える
契約書に「前の店は故障の責任を負わない」と書かれていることもあります。ただし、そう書いてあっても、前の店が知っていながら言わなかった不具合については、前の店は責任を免れません。なので、契約の前に「調子の悪い設備はありますか」とメールで聞き、答えを残しておいてください。
内装工事の見積もりへの影響
居抜き物件でも、内装工事が要らなくなるわけではありません。残った造作を「そのまま使う」「直して使う」「撤去する」の3つに分けて、内装の会社に見積もりを出してもらいます。
残った造作の3つの扱いそのまま使う
- ・動作と傷を確かめた物
- ・内装工事の見積もりには入れない
直して使う
- ・修理・掃除・部品の交換
- ・見積もりに「補修」として入れてもらう
撤去する
- ・使わない内装や設備
- ・撤去と処分の費用を、前の店と自分のどちらがもつか、造作譲渡の契約で決める
この3つの分け方は、造作譲渡の契約を結ぶ前に決めておくのが理想です。契約のあとで「この設備は使えない」と分かっても、前の店は故障の責任を負わないという契約なら、直してもらえないことがあるので、造作譲渡の契約の前に、内装の会社に部屋を見てもらってください。
古い内装を壊す工事も、内装の工事として扱われます。なので、古い内装を壊す工事と新しい内装をつくる工事を同じ会社に頼むなら、両方を足した代金が500万円以上かどうかで、その会社に建設業許可が要るかが決まります。数え方は店舗の内装工事と建設業許可で説明しています。
店舗内装の会社一覧に載っている25社の公式サイトを、2026年10月17日に調べた結果は次のとおりです。
会社一覧の25社の公式サイトを調べた結果
ここで数えたのは、居抜き物件での施工事例か、居抜き物件の工事に対応できるという記載がある会社です。各社のページの「居抜き物件の工事」の欄と出典のリンクから、その記載のあるページを開けます。
保健所と消防
前の店が保健所の許可を受けていても、その許可を新しい店がそのまま使えるとは限りません。許可を引き継げるのは、前の店の営業をまるごと譲り受ける場合です。
前の店の飲食店の許可を引き継げるか引き継げる場合
- ・前の店の営業の全部を譲り受ける(事業譲渡)
- ・保健所に、許可を引き継いだという届出をする
- ・大幅に作り変えると、新しい許可と同じ扱い
引き継げない場合
- ・内装や設備だけを買う(造作譲渡)
- ・営業の一部だけを譲り受ける
- ・新しく店を営む人として、許可を受ける
内装や設備だけを買って新しい店として始める場合は、営業する人が変わるので、新しく店を営む人として保健所の許可を受けます。前の店の営業をまるごと引き継ぐつもりなら、前の店から保健所に事前に相談してもらってください。
美容室の場合も、美容所を開く人は、場所や店のつくり・設備などを前もって届け出て、そのつくりと設備の検査を受けて確認をもらってから使います。消防については、東京消防庁の案内では、次の届出が決まっています。
工事等計画届出書は、店の中に壁(間仕切り)をつくる工事などをするときに出します。届出者の欄に書くのは、工事の会社ではなく、建物を使う店などの側なので、「届出書の作成を手伝ってもらえますか」と内装の会社に頼みつつ、届出者は自分になると考えておいてください。
今日やること
- 1リストを頼む前の店(または仲介の不動産会社)に「譲っていただける物の一覧を、型番とリースかどうかを入れてください」と頼む
- 2契約書の原状回復を読む部屋を借りる契約書で、出ていくときに戻す範囲と、引き継いだ造作の扱いを確かめる
- 3内装の会社に見てもらう造作譲渡の契約の前に、会社一覧から選んだ会社に「残った物を、使う・直す・撤去するに分けてください」と頼む